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「知財部はいらない?」その真相とキャリアの選択肢を徹底解説

Hupro Magazine編集部 石田
「知財部はいらない?」その真相とキャリアの選択肢を徹底解説

「知財部って、いらないのでは?」そんな声を耳にしたことがある方や、知財職・弁理士への転職を検討している方も、いらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、知財部が「不要」とされる背景と、企業における知財の重要性を紐解き、今後のキャリア選択についてもわかりやすく解説します。

「知財部はいらない?」その真相とキャリアの選択肢を徹底解説

なぜ「知財部はいらない」と言われるのか?

そもそも、知財とは知的財産(Intellectual Property、IP)の略称で、企業が生み出す技術・アイデア・ブランドなどの目に見えない資産を指します。知的財産には、以下のようなものが含まれます。

  • ◎ 特許権(技術的な発明)
  • ◎ 商標権(ブランド名やロゴなど)
  • ◎ 著作権(文章・音楽・映像などの創作物)
  • ◎ 意匠権(製品のデザイン)
  • ◎ 営業秘密(ノウハウや顧客情報など)

これらを守り、活かすために知財部は欠かせない存在です。にもかかわらず、「知財部は不要では?」という声が上がる背景には、誤解や組織の仕組みによる課題が潜んでいます。そうした見方が生まれる理由を3点に整理して解説します。

1)コストがかかる部門という誤解

知財部が扱う特許や商標などは、営業部のように売上を直接生み出すわけではないため、特許出願や維持費用などでコストが目立ち、会社の利益に貢献していないように見えることがあります。

2)成果が見えづらく、評価されにくい構造

また、知財部の業務は、成果が数値化しづらい傾向にあります。
たとえば、特許の価値は数年後に現れることが多く、短期的な成果が評価されにくい構造にあると言えます。

3)他部門との連携不足・業務の不透明さ

例えば研究開発部・営業部と知財部がうまく連携できていないと、存在意義が社内に浸透しづらく、「何をしているのか分からない」と思われてしまいます。このように知財部の役割が曖昧になることで、業務の透明性が損なわれている可能性があります。

特にスタートアップや中小企業など、リソースが限られている場合、知財よりも事業拡大や営業に投資が優先されることが多く、知財部は不要と判断されるケースもあります。

こうした状況が、「知財部はいらない」という声につながっているのです。

知財部の価値とは?:業務内容と役割から再考する

では、本当に知財部は不要なのでしょうか。実際には企業の競争力を支える重要な役割を担っています。

業務内容|発明発掘・出願・権利化・調査・契約対応など

知財部は単なるコスト部門ではなく、企業競争力につながる重要な役割を担っています。
業務内容としては、下記のように多岐にわたります。

発明発掘 開発現場で生まれるアイデアを見逃さず、価値ある技術を発明として掘り起こす活動。
研究者自身が気づいていない可能性にも目を向けます。
出願、権利化 発明内容を特許として出願し、審査対応を経て正式な権利にするまでをサポート。
法律・技術・実務の知識が求められる専門的な業務です。
特許調査 他社の特許や技術動向を調べ、自社の開発や事業に影響がないかを確認。
先行技術の把握やリスク回避に欠かせない工程です。
契約対応
(ライセンス契約・秘密保持契約など)
知的財産に関する契約を適切に設計・交渉し、技術や情報の保護・活用を支援。
事業の安全性と柔軟性を両立させる役割を担います。

これらは、単なる事務作業ではなく、企業の技術やアイデアを守り、活かすための戦略的な活動です。

次に、企業における知財部の役割について3つ紹介します。

役割 ①|経営戦略との連携

経営戦略は企業のビジネスモデルや収益の構造に深く関わります。
特許などの権利を戦略的に活用することで、競合を牽制しながら収益源にもなり、企業の競争力を高める要素となります。

役割 ②|他部門との橋渡し役

知財部は技術・法務・営業などの部門と連携し、研究成果を権利化しながら事業に生かす役割を担います。
社内の情報をつなぐことで、知財の活用を促すハブとして機能します。

役割 ③|企業の成長への貢献

IPランドスケープなどを活用し、競合や市場の動向を分析すること、経営判断を支える情報を提供することも企業内の役割です。
これにより、「他社や既存の権利を侵害していないか?」といったトラブル回避をしながら、新規事業の方向性を見出すことも可能になります。

知財部がない企業はどう対応している?

それでは、知財部を持たない企業はどうしているのでしょうか。
その場合の対応方法について見ていきましょう。

社内での簡易対応とそのリスク

知財部がない場合、技術者や法務担当が兼任するケースもあります。
しかし専門性が十分でないと、特許の取得が遅れたり、契約内容に不備が生じるなどのリスクも高まります。
結果として、事業に影響を及ぼす可能性があります。

外部委託という選択肢と注意点

上記の対策として、特許事務所IPコンサルに業務を依頼する方法もあります。
専門家の力を借りることで効率化は図れますが、社内の事業内容や戦略を十分に理解してもらえないまま任せてしまうと、方向性のズレや情報管理の不備につながることもあります。

外部に頼る場合でも、社内での連携体制や情報共有の仕組みを整えておくことが、トラブル回避につながります。

知財部への転職(就職)は難しい?

知財部の必要性が見直される中で、「自分も知財職に挑戦できるのか?」と考える方もいるでしょう。
未経験や新卒でも可能性はありますが、一定の専門知識適正が求められます。以下に詳しく解説していきます。

未経験・新卒でもチャンスはある

経験者でなくても知財職への道はあります。
特に理系学部や法学部出身者はポテンシャル採用の対象になることがあります。
知財教育を受けている、あるいは知的財産に関心があることは選考でのアピールポイントになります。

知財業界内での転職事情

業界内では、企業の知財部から特許事務所への転職、またその逆も一定数あります。
その際は、実務経験と専門性がキャリアの鍵になります。知財職は専門性が高い分、経験を積むことで職域が広がるのも特徴です。

知財人材に求められるスキルと適性

続いて、知財業務を円滑に進めるために欠かせないスキルと適正にも注目してみましょう。

必要な専門知識と実務スキル

知財人材に求められるスキルとしては、特許法や契約、調査力、英語力などの知識が基本になります。これらは、発明の権利化や契約交渉、技術動向の分析など、日々の業務に直結する重要な要素です。

上記のような知識・スキルに加え、社内調整力やコミュニケーション力も重要です。
技術者や法務、経営層との橋渡しを担う場面が多く、関係者の意図を汲み取りながら調整する力が求められます。

向いている人の特徴

向いている人の特徴としては、論理的思考力、粘り強さ、そして技術や法律への好奇心が挙げられます。
細かい情報を丁寧に扱いながら、長期的な視点で物事を考えられる人に向いている職種です。

弁理士資格は必要?

弁理士資格がなくても知財部で働くことは可能ですが、取得すればキャリアの選択肢が大きく広がります。
企業内弁理士としての活躍や、特許事務所での独立など、専門職としての道も開けてきます。

知財部の将来性とキャリアパス

大手企業での知財戦略の強化

まず、企業が知財部門にどのような期待を寄せているのかを見てみましょう。
近年では、大手企業が知財の重要性を再認識し、戦略的に活用する動きが広がっています。その具体例を2社紹介します。

◎ダイキン工業
ダイキンは、社外のスタートアップ企業と一緒に、新しい技術やサービスを生み出す「オープンイノベーション」に力を入れています。
たとえば、空調機の遠隔メンテナンスを支援する技術を持つ企業と協力し、現場の作業を効率化する取り組みを進めています。
その際、ダイキンが持つ特許や技術をうまく活用して、協業をスムーズに進めるための知財の仕組みが整えられているのです。
◎旭化成
旭化成では、特許情報を活用して「どんな技術が今注目されているか」「競合がどこに力を入れているか」などを分析しています。
これを「IPランドスケープ」と呼び、技術開発だけでなく、どの分野に投資すべきかといった経営判断にも知財データを活かしています。
つまり、知財部門が経営層の意思決定に関わるようになっているのです。

こうした事例からも、知財部が経営に近い役割を担うようになっていることがわかります。

実務経験によるキャリアアップ

先に触れてきたように知財部の役割が広がっています。
それに伴い、個人のキャリアにも新たな可能性が生まれており、知財業務の経験を積むことで、より上流のポジションにステップアップする道も開けます。
たとえば、事業部門と連携して知財戦略を立てるIPマネージャーや、企業全体の知財方針を統括するCIPO(Chief IP Officer)など、知財を軸にしたキャリアが注目されています。

経営企画や新規事業開発など、知財の知見を活かせる場面は増えています。

資格取得によるのキャリアの広がり

キャリアの幅を広げるうえで、資格取得も有力な選択肢のひとつです。
弁理士や技術士などの資格を取得すれば、専門性をさらに高めた働き方が可能になります。企業内で高度な知財業務を担うだけでなく、特許事務所での独立やコンサルタントとしての活動も視野に入ります。

資格は、専門職としての信頼性を高めるだけでなく、キャリアの幅を広げる強力なツールです。

他職種への展開も可能

さらに、知財職はさまざまな分野へキャリアを展開しやすいと言えます。
さまざまな分野とは、法務部、技術営業、ライセンス管理などが挙げられ、知財職での経験をこれら他職種でも活かすことができます。

たとえば、契約や調査のスキルは法務部門で役立ちますし、技術と知財の両方を理解している人材は、営業現場でも製品の強みを的確に伝えることができます。
知財分野は専門職でありながら、応用力の高いキャリアでもあるのです。

まとめ

今回は、知財部の役割やキャリアの可能性について見てきました。
「知財部はいらない」と感じたときこそ、知財の本質的な価値や役割を見直すチャンスです。企業にとって知財は、単なるコストではなく、競争力を支える重要な資産になります。

転職や就職を検討する際は、業務内容や将来性を踏まえ、自分に合ったキャリアパスを描くことが大切です。知財分野は、専門性と実務力を磨くことで、着実に成長できるフィールドです。興味がある方は、ぜひ一歩踏み出してみてください。

この記事を書いたライター

株式会社ヒュープロにて、オウンドメディア「Hupro Magazine」のライティングを担当。専門性の高いテーマでもわかりやすく、実務に役立つ記事づくりを心がけています! 業界動向や転職市場のリアルを踏まえた情報発信を通じて、キャリア形成に役立つコンテンツをお届けします。士業・管理部門での転職をご検討の方は、業界特化型の転職エージェント「ヒュープロ」をぜひご活用ください。
カテゴリ:転職・業界動向

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