いまや公認会計士が一般企業で働くのは全く珍しくなくなりました。特に上場企業であればおよそほぼ全ての企業に公認会計士がいると言っても過言ではない状況なのではないかと、体感的には思います。
一方、ベンチャー企業に飛び込む公認会計士はそれなりにいるものの、非上場オーナー企業のところへ行くという公認会計士はそう多くないと思います。わたしは、その(たぶん)数少ない経験をした一人ですので、その経験をお話しできればと思います。
わたしは、公認会計士試験合格後、例に漏れず大手監査法人に勤務いたしました。縁あって地方事務所に採用していただき、監査はもちろんのこと、システム導入支援業務やいわゆるJ-SOX導入支援業務といった様々な職務をする機会に恵まれておりました。
その傍ら、公認会計士登録までの間にプライベートでは妻と結婚しました。結婚当初からごく自然にいずれこどもを儲けたいと思っておりましたので、となれば妻の実家のあるところに住むのがいいと考えるようになり、現住所の群馬県前橋市でどこか働き口が無いかと探して見つけたものです。
社名は出しませんが、わたしが入社した2013年時点でも時折日本経済新聞の地方面に取り上げられるような、県内でも成長著しい注目の企業でした(いまもそうだと思います)。とにかくイケイケどんどんで、わたしの在職中にテレビ東京の経済番組に取り上げられるまで至りました。
創業社長ではありましたが、社長一族が株式を全て保有しているわけではなく、外部株主も多少いることは入社前から判明していたので、ひょっとしたら上場しようとしているのではないかとも考えました。だとしたら、自分のキャリアにとっても大きなプラスになります。そして得てして、一般的にいってもこの手の会社の内部管理状況は課題を抱えていることが多いですから、公認会計士としての知見を活かせるものと思っていました。
果たして入社後、内部管理状況に課題を抱えているのはそうでしたが、上場するつもりはすでに無くなっていたことを思い知るのですが。
当初は、経理担当者が退職するためにその後任ということで、まずは経理業務を任されました。日々の経理業務のなかでも改善点が多くあったのでそれを良くしていけばいいと考え、実際に自分なりに改善していきました。
その会社は本業が時流をとらえたもので、成功をおさめていましたが、社長はそれにあきたらず新規事業にきわめて意欲的でした。そんな状況で、入って1,2か月も経たないうちに新規事業をいよいよ本格的に、そして大規模に展開させるということになり、ついては資金調達(すべて外部金融機関からの借入)をする必要があることから、その金融機関との折衝を担うこととなりました。経理業務は続ける一方で、とにかく金融機関からの借入を実施するというのが使命となりました。
金融機関からの借入自体は、本業の信用状況が良好だったのと、事業計画の型はすでに決まっていたものがあったので、それほどシビアなものではなかったと言えると思います。ではありますが、その事業が留まることを知らず拡大し、それに連れて取引のある金融機関も増えていくことから、その連絡だけで相当な時間を取られました。
朝に出社し、ちょっとした雑務や確認をして金融機関といったところからのひっきりなしの電話等に対応していると、瞬く間に時間は過ぎていきました。自分の仕事に取り掛かるのは夕方になってからという状況でした。さらに、わたしが主に携わっていた新規事業とは別に、大きなプロジェクトをいくつも立ち上げており、控えめにいってしっちゃかめっちゃかでした。
そして本業は、世間が休みの期間に繁忙期を迎える業界だったので、そのときは現場に応援に駆り出されました。年間休日は100日ぐらいだったと思います。正月は2日から出勤でした。
結局、この会社は2年強で退職することとなります。前述した労働条件がさほど良くない、ということもありますが、それよりは、公認会計士としてここには居られないな、と思ったことの方が大きいです。
会社(社長)はイケイケどんどんで突っ走るところがどうしても出てきます。あるプロジェクトが、必要な手続きを経ずに完全に見切り発車でスタートしました。それは公認会計士の資格を持つものとしてはちょっと看過できない状況でした。そのため、そのプロジェクトが開始されたのを見てすぐに、退職を決意しました。ちなみに、そのプロジェクトは案の定すぐに撤退を余儀なくされました。
これは、その会社のみならず、上場非上場問わず特にオーナー色の強い企業一般に共通して起こる事象だと考えますので記載しますが、やはり人材の入れ替わりは激しくなります。とくに(日本全体で起こっていることではあるようですが)、中堅社員がいなくなる、といった事象が生じます。
これはつまり以下のようなことです。
古参社員は、古参だけあって他に行き場もすでになく、オーナーについていかざるを得ない状況である一方、外から見てともかく勢いはありそうな会社なので新入社員は入ってきます。中途社員は随時募集しており、若手から中堅の社員が実際入社してくるのですが、さまざま問題のある点について外部のやり方を持ち込んで解決しようとするもそこで軋轢が生じ、結果、去っていくということを繰り返します。新入社員は即戦力という名のもとに現場に投入され、疲弊して退職していきます。
かくして、新入社員は中堅に育つ前にいなくなり、中途で入ってきた中堅を期待される社員はなじめずに去っていき、中堅がいない組織が出来上がることになるのです。
これは正直、よく分かりません。絶対的オーナー社長の存在があるため、社内の従業員の関係は逆に良かったので、それを生かして組織的に従順に対応していく、というのは一つのやり方かもしれません。実際のところ、大なり小なり組織で生きていくためには、組織内の所与の条件の下で、最適なふるまいをしていくことが求められるものだと思います。わたしは、これが不得手でした(なので独立しました)。
他では得難い経験を得られることは間違いないと思います。わたしも、結局2年強しかいませんでしたが、公には言えないことを多く経験しました。
こういった会社で、社長の信頼を得てついには主力幹部になるというのは、若手であればとりわけ超高難度なことだと思いますが、人生のなかでこういった経験をしておくのは、良いと思います。少なくとも、ここでの人とのつながりは今なお生きています。