企業経営において営業赤字などの事由で課税所得がマイナスになってしまった場合、繰越欠損金を活用することで翌期以降の法人税等を節約できます。
しかし、繰越欠損金は無条件に適用できるわけではなく、一定の条件を満たす必要があります。
今回は繰越欠損金の利用制限や控除限度額について、解説していきます。
繰越欠損金は企業の税務面で有利にはたらきますが、繰越欠損金を適用するには一定の要件が定められています。
無条件に繰越欠損金が認められているわけではなく、青色申告を行っているなど正確な会計を行っている企業にのみ繰越欠損金を活用できるのです。
繰越欠損金とは、所得が赤字になった場合の金額(欠損金)を翌会計年度以降に繰り越すものです。
欠損金を繰り越すことによって、翌会計年度以降に法人税等の金額を抑えられるというメリットがあります。
例えば、当期に100万円の所得赤字になった場合、翌期以降に黒字となった場合に課税所得が少なくなり、法人税等の支払額を少なくできます。
繰越欠損金の会計上の取り扱いについては以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご確認ください。
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法人税等の節約に用いられる繰越欠損金ですが、適用するには一定の条件があります。
第一に、青色申告を行っており、正確に所得の申告を行っていること。
また、企業の規模によって繰越欠損金の利用額に限度が定められており、大企業の場合は全額を繰越欠損金に参入できるわけではないことに注意してください。
以下は、繰越欠損金を利用できる条件です。
普通法人である
青色申告が必要
10年以内に発生した欠損金であること
控除限度額が設定されている(大企業と中小企業で取り扱いが違う)出典:参考:国税庁『青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除』
繰越欠損金を利用するためには青色申告をしている事業者であることが求められます。
国税庁によると、「欠損金額が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出し、その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出している法人」という定めとなっています。
青色申告とは、帳簿などを正しく管理し、正しい申告を行うことによって税制面で有利な取り扱いを受けられる制度です。
なお、繰越欠損金を利用するためには、課税所得がマイナスになった会計年度に青色申告をしていることが条件です。
繰越欠損金はその全額を控除できるわけでなく、法律により一定の控除限度額が設定されています。
特に、大企業の場合には細かく控除限度額が設定されているため、取り扱いに注意しなければなりません。
繰越欠損金の繰越期間は10年以内と規定されています。
欠損金が出てから10年以内に適用されなければ繰越欠損金の効力を失ってしまいます。
過去に繰越欠損金が出ている場合、効力を失わないうちに処理しておきましょう。
大企業の場合、繰越欠損金に参入できる金額は以下の通り定められています。
なお、大企業とは資本金が1億円以上の法人を指します。
例えば、平成28年4月1日の開始された事業年度の繰越欠損金が100万円である場合、(3)の期間に該当するので、繰越欠損金の限度額は60万円となります。
中小企業の場合、繰越欠損金の参入額に制限はありません。
青色申告を正しく行っている企業であれば、全額繰越欠損金を適用できます。
繰越欠損金の制度は頻繁に改訂が行われており、複雑な条件を考慮しなければいけません。
繰越欠損金の適用を考えている場合、国税庁のHPなどで現行の制度を必ず確認し、適切な会計処理を行うようにしましょう。
M&Aなど企業合併の対象が繰越欠損金を抱えている場合、適用に制限がかかります。
原則として、合併などにより被合併法人の資産が合併法人に移転する場合、被合併法人の抱えていた繰越欠損金は消滅してしまいます。
ただし、「適格合併」という制度を活用すれば全部、あるいは一部の繰越欠損金を引き継ぐことが可能です。
次のいずれかの条件に当てはまる場合、適格合併として認められます(法人税法第2条12号の8)。
なお、被合併法人をB、合併法人をAと簡略表記します。
繰越欠損金の利用制限や控除限度額の取り扱いについて見ていきました。
企業にとって節税効果のある繰越欠損金ですが、企業の状況に応じて利用に制限があることに注意してください。
また、繰越欠損金は頻繁に改訂されるものであるため、法改正について国税庁のHPなどで適宜確認をすることをおすすめします。
繰越欠損金を正しく取り扱い、適切な企業会計を行いましょう。