会計年度が赤字になってしまった場合、マイナス分の所得を繰越欠損金として翌期以降に繰り越すことによって、税務上で有利になります。
法人税等の計算を適切に期間配分する意味で、繰越欠損金と税効果会計の理解が重要です。
今回は繰越欠損金の税効果会計について、会計仕訳の事例とともに解説していきます。
営業赤字などの理由で所得がマイナスになってしまった場合、その年に所得税はかかりません。
しかし、マイナスになった分の金額はその年の所得税には影響されないため、翌期以降に繰り越して利用しよう、というのが繰越欠損金の考え方です。
繰越欠損金とは、所得が赤字になった場合に翌期以降に繰り越すお金のことです。
税務手続きにおいて、繰越欠損金を活用すれば所得の金額を期間ごとに調整できるため、支払う法人税の額が少なくなるなど税務上で恩恵を受けられます。
繰越欠損金の会計上の取り扱いについては以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご確認ください。
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繰越欠損金を活用することにより、翌期以降の所得税を節約できるというメリットがあります。
通常、所得税の計算は該当する会計年度の課税所得を基に計算されますが、繰越欠損金を活用すれば過去の所得赤字を差し引いた金額と通算できます。課税所得がマイナスになるということは、支払う法人税が少なくなります。
繰越欠損金は税務上で便利になる会計処理なので、必要に応じて有効活用しましょう。
繰越欠損金は税務上でどのように取り扱われるでしょうか?
法人税等の差異を計算する会計処理を「税効果会計」と呼びます。
繰越欠損金は会計年度を跨った会計処理を基本とするため、税効果会計との関わりは重要です。
繰越欠損金と税効果会計に関する税務上の取り扱いを確認してみましょう。
税効果会計とは、法人税等の額を適切に期間配分する会計処理の手続きです。
一般に、会計上の損益と税務上の所得のズレを調整するために用いられます。
税効果会計で用いられる「繰延税金資産」あるいは「繰延税金負債」は将来の法人税額を変動する要因として、会計上は「資産」あるいは「負債」として処理します。
こういった将来にズレが解消される現象を「一時差異」と言い、将来差異が解消された時に資産あるいは負債が使われるのです。
なお、繰延税金資産(負債)の相手科目となるものを「法人税等調整額」といい、当期純利益と法人税の差額を調整する科目としての役割を持ち、損益計算書上で取り扱われます。
税効果会計の考え方として、該当する会計年度における法人税等の額を計算します。
繰越欠損金においては、該当する繰越欠損金を基に法人税等の額を計算し、繰延税金資産として翌期以降に法人税等の調整を行います。
繰延税金資産は会計期間を跨る法人税等の支払額を調整するための科目として機能するものです。
次の項で具体的な会計仕訳の例を確認していきましょう。
ここからは、具体的な事例を交えながら繰越欠損金の会計仕訳を確認してきます。
繰越欠損金の会計処理を行う場合は、純利益が赤字になるなどの事情で所得がマイナスになる場合です。
翌期以降に繰り越された金額は課税所得がプラスになった段階で相殺することで、繰延税金資産としての役割を果たして解消します。
例えば、一期目に「繰越欠損金▲500千円」を計上した場合、以下のような会計仕訳を行います。なお、実行法人税率は30%とします。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
繰延税金資産 | 150 | 法人税等調整額 | 150 |
(単位:千円、繰延税金資産の期末残高は150千円)
このとき、繰越欠損金全額ではなく、実行法人税率を乗じた金額であることに注意しましょう。
法人税等の支払額を調整する科目であるため、対象となる法人税の額を計算します。
繰延税金資産の相手科目となる「法人税等調整額」は法人税等の金額を調整するための科目です。
翌期以降に、法人税を減額できる効果のある繰延税金資産を繰り越すことで、会計上の法人税費用のズレを解消できます。
翌期以降に黒字転換した場合、課税所得と繰越欠損金を相殺できます。
このとき、税効果会計としては過年度の法人等調整額の期ズレを解消できるため、以下のように仕訳を行います。
なお、二期目の課税所得は300万円であるとします(実行法人税率は30%)。
(二期目)
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
法人税等調整額 | 90 | 繰延税金資産 | 90 |
(単位:千円、繰延税金資産の期末残高は60千円)
繰延税金資産の期末残高は、期首残高の150千円から90千円を控除した60千円となります。
期末残高となった60千円は、さらに翌期以降へ繰り越せる資産です。
繰越欠損金と税効果会計について見ていきました。
法人税の計算を期間ごとに適正に配分するものとして、繰越欠損金と税効果会計の考え方について理解することが重要です。
繰越欠損金を正しく処理して、適切な会計処理を行いましょう。