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マイクロM&Aについて解説します!

税理士 都鍾洵
マイクロM&Aについて解説します!

今やM&Aは大企業だけの話ではなく、中小企業にとっても現実的な出口戦略の選択肢となりました。その中で、概ね譲渡価格10億円未満のM&AをスモールM&Aと呼ばれていますが、多くの小企業にとってはその価格も現実味がありません。今回はこのマイクロM&Aをわかりやすく解説します。

そもそもマイクロM&Aとは

皆さんは普段道を歩いていると、居酒屋さんや印刷屋、デイサービス、といった地域に根差したお店を目にすると思います。このような小さな会社の譲渡・M&AがマイクロM&Aです。

スモールM&Aよりも更に小さなM&Aを言います。譲渡価格5,000万円未満、いや3,000万円未満、と様々言われていますが、私は譲渡価格と従業員数で定義しています。すなわち、譲渡価格3,000万円以下、又は従業員数5人以下、です。

マイクロM&Aの買い手候補のほとんどは中小企業又は個人となります。
譲渡価格が5,000万円以上となると個人で買うことはほぼ不可能となり、中小企業でも手元現金では買えなくなります。また、リソースが少ない買い手が十分に目を行き渡せるのは、従業員5人以下です。

マイクロM&Aを取り上げる理由

日本において、このマイクロM&Aが最も売りニーズ数が多いです。つまり、最も世間に求められていると言えます。

なぜなら、第一には、数が多いためです。日本全国の中小企業の中でも、売上が1億円以下の会社は5割を占めています。日本全国の中小企業は約350万社あるといわれているので、売上高1億円未満の小企業は175万社あることになります。圧倒的にこのレンジの会社が多いですね。

マイクロM&Aを取り上げる理由

出典:平成30年度財務情報に基づく中小企業の実態調査に係る委託事業|一般社団法人CRD協会

第二に、小企業には後継者がいない事が多いためです。一昔前は、小さな規模の会社でも、子どもや親族が後継者として父親の会社を引き継ぐことが当たり前でした。しかし少子化の時代となり、引き継ぐ子どもが居ないケースが増えました。また子どもがいるケースでも、リスクがある会社経営を引き継がせない選択をする経営者も増加しました。必然的に小企業には後継者がいないことが多いのです。

では、後継者がいない場合は廃業するしかないのでしょうか。もちろん廃業も一つの選択肢です。手許に現金が残る場合もあります。しかし、多くの場合は借金が残ってしまいます。また、取引先も困ります。技術・ノウハウも途切れてしまいます。従業員は路頭に迷います。
絶対数が多いのに、後継者がいない、廃業も出来ない。よってマイクロM&Aが求められているのです。

そもそもマイクロM&Aとは

マイクロM&A実例

これから、実際に私が支援したマイクロM&Aの事例を紹介します。地域や金額、会社名などは秘密保持のため仮称しています。ご了承下さい。

(事例) 兵庫県の玉川音楽教室
売上3,000万円
年間利益200万円
譲渡希望額500万円

玉川音楽教室はフルート、ピアノ、チェロ、といったクラシック音楽教室です。生徒は幼稚園児から70代まで幅広い年齢層で、40名が在籍しています。教師は普段はオーケストラ楽団に所属している方が多く、授業がある時だけ出勤します。

元々利益も少なく、何とか運営していましたが、コロナウイルスの影響で自粛を余儀なくされ、更に経営を圧迫しており、先行き不透明のため撤退を検討されていました。

しかし、撤退すると生徒は困ります。また、教師も生活が圧迫されます。更に、音楽教室は防音設備が堅固に作られているため、その撤去にも700万円の費用が掛かる状況でした。相談を受けた私は、教室の譲渡を提案しました。

玉川社長は「こんな小規模な利益も出ていない事業が売れるのか?」と驚いていましたが、代案も無いため、快諾されました。

私としても年々減益している事業で、更にコロナで自粛しているため、成約する確証はありませんでした。しかし、おこがましい表現ですが何とか助けたいという思いで受託しました。

そして結果的には、一か月半というスピードで譲渡が完了しました。
買い手候補は法人が2社、個人が1名、名乗りを上げてくれ、1番相性の良かった個人に譲渡が決まりました。

基本的にはM&Aは経済合理性で相手先を決める場合が多いですが、マイクロM&Aにおいては、売り手は買い手との相性を重視する傾向にあります。大事にしている事業を大切にしてくれる相手に引き継ぎたいという意向が強く働きます。

今回の例でも譲渡価額だけ見れば法人の買い手候補の方が高かったのですが、最終的に売り手が選んだのは相性の良かった個人でした。また本件では、クラシック音楽への世間からのニーズの高さに驚きました。利益や先行きは決して良くありませんでしたが、買い手候補が複数手を上げてくれました。介護事業や運送業、薬局やIT業も人気業種のため、会社の実力よりも高く評価されることがあります。

譲渡価額は300万円でしたが、原状回復費用は不要となったため、トータルでは1,000万円を売り手は得をしたことになります。生徒や教師は今まで通り授業を続けられることになりました。買い手も新規で開業するよりも遙かに安い初期投資で、更に開業時から安定した収益を獲得することが出来ました。

まとめ

このように、小規模でも、利益が薄くても、マイクロM&Aは成立します。廃業や倒産が悪いとは思いませんが、マイクロM&Aも一つの選択肢として検討ください。

ただ、ご自身で買い手を探し、交渉することは容易ではありません。マイクロM&Aを扱う仲介会社は多くはありませんが、顧問税理士さんや銀行さんなどの中で小規模案件でも対応してくれる仲介会社を探しましょう。もし見つからなければ、当社も相談に乗りますのでご連絡ください。

中小企業の50%を占める小企業は日本社会に大きく貢献しています。特に地域社会において、あなたのお店が無くなってしまっては困る方がたくさんいます。マイクロM&Aを活用して、あなたが大事に育てた事業を後世に残しましょう。

この記事を書いたライター

関西大学大学院卒。中堅税理士法人代表税理士。自身でも4回起業し、2回は失敗、多額の借金を背負ったこともあり、経営者の気持ちがわかる希少な税理士。税務業務の他、ものづくり補助金申請支援やスモールM&A支援といった付加価値の高いサービスを展開。
カテゴリ:コラム・学び

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