毎年のように発生する給与や事業収入とは違い、一生のうちに1度しか受け取る機会がないことも多いのが退職金です。お目にかかる機会が少ないからこそ、退職金にかかる税金の仕組みについても馴染みが薄いと言えることでしょう。
今回は退職金を受け取った場合の税金計算の流れについて解説していきます。
勤務先から退職金の支給を受けた場合、その退職金に対して課税されうる税金は大きく分けて「所得税」、「住民税」、「相続税」の3種類存在します。
死亡退職の場合に支給される退職金には相続税が課税されますが、それ以外のケースでは所得税と住民税の2つが課税されることとなります。
その場合には、まずは退職所得を計算することによって、所得税や住民税の納税額を算出する流れとなります。
では退職金の税額を算出するための退職所得はどのように算出するのでしょうか?
具体的な計算方法は以下の通りです。
退職所得=(退職金の額面金額-退職所得控除額)×1/2
上記算式からもわかる通り、退職金の額面金額そのものに対して税金がかかるのではなく、退職所得控除額を控除し、さらに1/2を乗じた額が退職所得として課税対象となるのです。
退職金から控除される退職所得控除額は、退職者の勤続年数に応じて算出されるものであり、具体的には以下のように勤続年数が20年以下か20年超かによって算式が異なります。
・勤続年数が20年以下の場合
40万円×勤続年数(80万円より少ない場合には80万円)
・勤続年数が20年超の場合
800万円+70万円×(勤続年数-20年)
したがって、例えば勤続年数が30年の場合には、800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円が退職所得控除額となります。
退職所得の計算上、退職金の額から退職所得控除額を差し引き、さらに1/2を乗じます。これは退職金の担税力を考慮しているためです。
担税力とはその名の通り、税金を担う力のことを言い、つまり所得の種類によって異なる「負担できる税金の差」を指します。
冒頭でもお伝えした通り、退職金は一生に一度しか受け取ることができない場合が大半であり、毎年のように発生する給与の1,000万円と退職金の1,000万円では「負担できる税金の額」にも差があって当然と言えます。
つまり退職金は非経常的な収入であり、またそれが老後の生活資金の原資となることも多いことから、過度な税負担を強いることがないように「1/2」が乗ぜられるのです。
勤続年数によって計算される退職所得控除の額が、実際に支給される退職金の額面金額よりも大きい場合には、退職所得はゼロとなります。(※退職所得がマイナスとなることはありません。)
退職所得がゼロであれば、課税すべき所得がゼロであることを意味するため、結果的に退職金に対する所得税や住民税もゼロということになります。
所得税や住民税の計算においては、給与所得や退職所得を含め、所得の種類は全部で10種類あります。
給与所得や事業所得などの所得については個別に所得金額を計算した後、それぞれを合算し、その合算後の金額をもとに税額を計算する、いわゆる“総合課税”という方法によって納税額が算定されます。
しかし退職所得については“総合課税”ではなく、他の所得とは関係なく退職所得単独で税金計算を行う分離課税によって計算を行うという特徴があります。
他の所得の影響を受けない分離課税であることにより、一般的に退職金にかかる税金は、「額面金額」と「勤続年数」さえわかれば正しく計算することが可能となります。
したがって適切な税額を、退職金支給時に天引きしてしまえば課税は完結することとなるため、退職金支給時に必要な手順さえ踏んでいれば、退職金のために改めて確定申告をする必要はありません。
退職所得の計算を行った場合、具体的な所得税や住民税の額は以下の区分によって算出されます。
したがって例えば算定した退職所得が500万円の場合には、以下のように税額が計算されます。
1.所得税 :5,000,000円×20%-427,500円=572,500円
2.復興特別所得税:572,500円×2.1%=12,022円(円未満切捨)
3.住民税 :5,000,000円×10%=500,000円
1~3の合計 :1,084,522円
つまり退職金支払い時には、1,084,522円の税金が天引きされて支給されるということになります。
ここまでは生前に退職金の支給を受けた場合の所得税や住民税の課税方法を確認しましたが、死亡時に退職金が支給される場合には所得税や住民税は発生せず、相続税の課税対象となります。
これは死亡時に支給される退職金は、死亡した社員ではなく、その遺族に支払われるという性質に基づくものです。
なお死亡退職金については、『500万円×法定相続人の数』までは相続税が非課税となります。
今回は退職金を受け取った場合に発生する税金について、計算過程をもとに解説を行いました。
実際に支給を受ける方だけでなく、源泉徴収を行う支払者(会社側)についても、徴収税額に誤りがないよう、正しく税金計算を行えるようにしておかなければなりません。
頻繁に生じるものではないからこそ、いざというときにはきちんと対応できるように理解を深めておきましょう。